小説

『八月の御所グラウンド』万城目学

No.1818 2023年11月29日読了 万城目学さんは、『ザ・万歩計』というエッセイから入って、『鴨川ホルモー』を読んで、はまった作家さんです。そう言えば最近全然読んでないと思っていたのですが、2017年に出版された『パーマネント神喜劇』を読んで以来でした。調べてみると、『パーマネント神喜劇』以降の小説は2作しか出版されていないようです。2021年と2022年に1作ずつです。しかも本屋さんでは全然目にした記憶が無かったりします。読みそびれた作品は、そのうち図書館で借りて読もうかなと思っています。 さて、久々の万城目学作品ですが、この本には2つの小説が収められています。ひとつは「十二月の都大[…]
麦二郎
先週

『私たちの世代は』瀬尾まいこ

No.1817 2023年11月25日読了 瀬尾まいこさんの本を初めて読んだのは、2008年11月のことでした。今から15年前ということになります。読んだのは、『天国はまだ遠く』でした。文庫本になってました。はっきりと覚えていないのですが、多分映画を観たのがきっかけだったと思います。それから、いろんな本を読み、最近では新刊が出るとすぐに読むことにしている作家さんの一人です。 コロナ禍の頃に小学三年生の二人の少女が主人公です。二人の物語と未来の話が交錯しながら始まり、良くある手法だとは思いますが、二人の物語がある時点から一つになります。瀬尾まいこさんの物語には特別な伏線やその回収というミステリー[…]
麦二郎
先週

『777 トリプルセブン』伊坂幸太郎

No.1816 2023年11月12日読了 読み終えると、次の作品が出ないかなと思ってしまいます。殺し屋シリーズの第4作目です。『グラスホッパー』、『マリアビートル』、『AX アックス』に続く第4作です。最近ビデオで『マリアビートル』を原作とした『ブレットトレイン』という映画を観たのですが、あの舞台は新幹線でしたが、今回はホテルが舞台でした。『マリアビートル』がどんなストーリーだったか覚えていないのですが、映画と比べるとあの映画のホテル版が今回の『777』だと思います。 主役は「天道虫」、最も運の悪い人です。とても楽な仕事だった筈が、いつの間にか他の仕事に巻き込まれて、大変な目に遭うのです。物[…]
麦二郎
3週間前

『うたかたモザイク』一穂ミチ

No.1815 2023年11月9日読了 13編の短編小説集。数ページの短いものから、長くても40ページ弱くらいの短編小説が収録されています。最後の1作は書き下ろしで、他は雑誌やフリーペーパー、ウェブに掲載された作品を集めています。5つに分類されていて、それぞれsweet , spicy , bitter , salty , tastyという分類になっています。味そのものではなく、人生の味わいと言った感じでしょうか。どの作品も似通ってなくて、いろんな味わいがある、そんな短編集だった気がします。 特に面白かったのは、2つ。猫が出てくる短編です。一つは「レモンの目」。マンションに現れる黒猫を通じた[…]
麦二郎
3週間前

『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』原田ひ香

No.1813 2023年11月4日読了 原田ひ香作品、連続読みです。『老人ホテル』もこの本も、図書館で借りたものなので、返却のため優先して読んだのでした。直近の新刊は、出たら買って読もうと思っているのですが、新刊の時に読み損ねた本は図書館で借りて読むことにしました。 6つの話が収録されている短編小説集でした。母親からの小包がモチーフになっています。一つだけそうでないのも混ざっていますが。ありそうな話と、ありそうなエピソードばかりだと思いますが、そういう話が原田ひ香作品の面白いところなのかも知れません。想像を絶するあり得ない話ではなく、身近だということ。そして、それが現実だと嫌だなと思う気持ち[…]
麦二郎
先月

『老人ホテル』原田ひ香

No.1811 2023年10月30日読了 このところ、原田ひ香率が非常に高くなっている。それにしても多作な作家さんだ。もう新刊が出てしまった。 この本は、2022年10月30日出版の本。と言うことは、ちょうど1年前だったりする。買いそびれた新刊だった本を、最近は図書館で借りて読んでいる。この本は、ずいぶん長い待ち行列だったということになる。 原田ひ香さんの小説には、嫌な人が結構出てくる。良く読む作家さんで比べてみると、瀬尾まいこさんの小説には嫌な人はほとんど出て来ない。対極と言っても良いくらい。 主人公は、天使というキラキラネームの女性。家庭に恵まれず、高校は中退していて、キャバクラに勤める[…]
麦二郎
先月

『財布は踊る』原田ひ香

No.1809 2023年10月13日読了 母子家庭で育った葉月みづほは、お金に恵まれていなかったことから、高校時代に流行った長財布を手にすることが無かった。結婚して夫と子どもの3人家族であるが、今は夫の稼ぎだけで暮らしているので、生活はギリギリというところだろうか。みづほはそれでも節約をして、買いたいものも我慢してハワイ旅行に行けるだけの貯金をする。そして念願かなってハワイ旅行に出掛け、憧れのルイ・ヴィトンの財布を手に入れた。その大切な財布は、残念ながら長くみづほの側に置いておけなかった。 物語はこういうところから始まり、いろいろな人とお金の物語が展開して行く。ネタバレになるので、詳細は書か[…]
麦二郎
先月

『口福のレシピ』原田ひ香

No.1803 2023年9月20日読了 主人公は、老舗の料理学校の後継者として期待される留季子。そういう家庭環境に反発を覚え、家を出て友人の風花と暮らしている。留季子と料理学校を仕切る祖母、母とのからみや、留季子の婿候補として雇われている料理学校の理事長とのからみで、一つの物語が進んで行く。時折美味しそうな料理の記述があって、この作品も料理小説かなと思う。 一方で昭和の世の料理学校を営む曾祖父の時代が描かれている。その物語の主人公は、しずえ。料理学校を営む家に女中奉公に来ている女性。しずえは、曾祖父の指導のもと、生姜焼きのレシピを書く。 二つの物語が並行して進んで行く。時代は令和と昭和という[…]
麦二郎
2ヶ月前

『クロコダイル・ティアーズ』雫井脩介

No.1799 2023年8月30日読了 クロコダイルティアーズとは、嘘泣きのこと。このタイトルが秀逸なのは、ラストになってわかった気がした。 夫を元彼に殺された妻が主人公かなと思ったら、物語が綴られている視点からすると、息子を嫁の元彼に殺された母親が主人公なんだろう。人は疑いの目で物事を見始めると、全てが疑わしく見えてしまうものかも知れない。 『火の粉』という著者の作品に似ていると思いながら読み進めた。図書館本なので、できたら今日読み終えて、明後日にも返却しに行かなくちゃと思って、毎日100ページ強読む計画を立て、順調に計画通り読むことができた。計画通り読み終えることができたのは、面白くてペ[…]
麦二郎
3ヶ月前

『ラジオ・ガガガ』原田ひ香

No.1797 2023年8月13日読了 『ラジオ・ガガガ』というタイトルは、素晴らしいと思う。まさにラジオはガガガっていうイメージがするからだ。僕がラジオを聴いていたのは、高校生くらいの頃だったろうか。もちろん、オールナイトニッポンという番組も聴いたことはあるが、それほど熱心なファンではなかった。 僕が一時期のめり込んでいたのは、海外の短波放送を聴くという趣味だった。雑音がひどい中、ダイヤルを回して音がするところで耳を澄ます。どこの国の放送かを確認して、視聴したことを郵送で報告する。BCL(Broadcasting Listener)ブームは、1970年代だったみたいで、僕も海外の放送局から[…]
麦二郎
3ヶ月前

『夜明けのすべて』瀬尾まいこ

No.1794 2023年7月31日読了 瀬尾まいこさんの書く小説は、安心して読めるものが多い。いろんな理由で落ち込んだりしている人たちの再生の物語が多いからだろう。しかも周囲の人たちも、主人公も良い人たちばかりだ。 この物語もそうだった。この本を読んでPMS(月経前症候群)という病気を初めて知った。要するに月経前に一時的に心が乱れてしまい、苛立って抑えられなくなる。この物語の主人公の一人、藤沢さんが患っている病気である。 もう一人の主人公、山添くんが患っているのは、パニック障害。こっちの方は、聞いたことがあるが、詳しくはない。この物語を読んで、特に原因となることが無くても、そして一見明るくて[…]
麦二郎
4ヶ月前

『刑事何森 孤高の相貌』丸山正樹

No.1792 2023年7月21日読了 『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』を読んだのは、2015年11月のことでした。単行本では『デフ・ヴォイス』というタイトルだったのが、2015年8月に文庫本化されて、『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』と改題されています。 その後2018年には、『龍の耳を君に デフ・ヴォイス新章』が出版され、2019年に『慟哭は聴こえない デフ・ヴォイス』が出版されています。この二つの作品は、文庫本化されています。そして2021年8月『わたしのいないテーブルで デフ・ヴォイス』が出版されていますので、『デフ・ヴォイス』シリーズは4冊ということになります。第2作以降はま[…]
麦二郎
4ヶ月前

『光のとこにいてね』一穂ミチ

No.1791 2023年7月17日読了 2023年本屋大賞第3位。一穂ミチさんの本は、『スモールワールズ』を2年前に初めて読み、この本が2冊目。『スモールワールズ』の後で、『砂嵐に星屑』や『パラソルでパラシュート』などが出版されて、気になっていたものの、結局読まなかった。今回は本屋大賞ノミネートと言うことで、図書館で順番待ちして読んでみました。もっと早く読みたかった、と言うのが正直なところですが、特に読む時期は本の内容とは無関係です。 この本の感想は、とても書きにくい。僕の薄っぺらい言葉で表現できるものでもないですし、この本の二人の主人公のことを理解できているかと言うとそうではないのです。描[…]
麦二郎
4ヶ月前

『図書館のお夜食』原田ひ香

No.1790 2023年7月12日読了 本と食をモチーフとした物語。この図書館は私設図書館で、有料で、しかも夜しか開館していない。多くの人に来てほしくない図書館なのだ。タイトルに「夜食」とあるように、この図書館で従業員向けに提供される食事も面白い。名のある作家の本に登場するお料理なのである。 夜しかやっていない図書館なんて、ミステリアスに決まっている。しかも従業員も何だか謎めいている。秘密を抱えている。 何とこの本のカバーの裏側には、この本に登場した料理のレシピが印刷されていました。でも、個人的にはお料理よりもこの図書館の経営者が気になっていました。 新しくこの図書館の従業員となった樋口乙葉[…]
麦二郎
4ヶ月前

『夜空に浮かぶ欠けた月たち』窪美澄

No.1785 2023年6月28日読了 先日窪美澄さんの『夜に星を放つ』を読んで、非常に良かった印象があるので、この本が出版されていることを知り、さっそく買って読むことにしました。タイトルも「夜」が共通で「月」と「星」が似通っています。短編集なのも共通していますが、こちらの方がもっと繋がって、一つの物語になっていました。 6つの短編と短いエピローグで構成されています。6つの短編の共通点は、喫茶店と「椎木メンタルクリニック」で、内容的には心を病んだ人達が主人公と言うことです。「病んだ」と言う言葉は適切ではないかも知れません。傷付き、心の風邪を引いてしまった人達を癒やし、そして自ら再生して行く物[…]
麦二郎
5ヶ月前

『永遠と横道世之介(上)』吉田修一

No.1783 2023年6月14日読了 『横道世之介』は、2009年9月に出版され、2012年1月に読んだ。『続 横道世之介』は、2019年2月に出版されており、この本はそれから4年くらい経っている。『横道世之介』のインパクトが大きかったので、続編が出ると買って読んでしまう。今回は上下巻に分かれている長編だけど、やっぱり買ってしまった。それだけ魅力を感じているのだろうけど、おそらく横道世之介に会えるのはこの本が最後じゃないかと思う。 ある意味、完結編なのだと思っているからだ。 内容 上下巻に分かれていて、上巻を読み終えた。横道世之介のある1年間を描いているようで、上巻は9月から翌年2月の物語[…]
麦二郎
5ヶ月前

『天使も怪物も眠る夜』吉田篤弘

No.1779 2023年6月2日読了 2019年7月に出版された本。螺旋プロジェクトと称された8人の作家の8冊の本で、「海族」と「山族」の対立の絵巻物。時代は原始から未来へ続く物語で、この本は最終章で2085年頃から2095年頃までを舞台とした物語です。他の7冊の本は、2019年の秋には読み終えていたのですが、この本は途中で挫折してしまって、長い間本棚の積読本になっていました。積読本の中でも一番古いものだったのですが、今回「積読本一掃プロジェクト」を始めて、とうとう読み終えることができました。 ちょっと感慨深い心境になり、達成感に浸っています。ちなみに去年の11月に文庫本でも発売されているよ[…]
麦二郎
6ヶ月前

『DRY』原田ひ香

No.1778 2023年5月26日読了 原田ひ香さんの本は、これで15冊目になります。目をつけている文庫本が2冊、図書館で予約している単行本が3冊ありますから、20冊突破は近いかも知れません。最初に読んだのは、2018年2月のことで、『ランチ酒』でした。因みにこれまで沢山読んだ作家ベスト10には、まだ入っていませんが、20冊を超えるとランクインでしょう。 内容について いやいや、酷い話でした。そして、気持ちが悪い。原田ひ香さんの小説でここまで重かったのは、他には無かった気がします。主人公は浮気で離婚されて、子ども達と引き離され、金銭的にも困窮している藍という女性です。祖母と母が暮らす実家に戻[…]
麦二郎
6ヶ月前

『汝、星のごとく』凪良ゆう

No.1775 2023年5月21日読了 2022年本屋大賞受賞作。2022年8月に出版されている本。発売された時に買って読もうかどうしようか迷って、結局買わなかったので、買いそびれてしまいました。なので、図書館で予約をして順番が回ってきて、読みました。本屋大賞発表以降、本屋さんには沢山平積みされていて、一昨日も本屋さんでその光景を見て、「凄いなあ」と思ったものです。 内容 瀬戸内海の島で暮らす井上暁海とその島に母とともに移住してきた青埜櫂の17歳から32歳くらいまでの物語です。青埜櫂は、母親から離れて暮らすため、東京に出て漫画の原作者になります。井上暁海は、島から出て暮らしたいと考えますが、[…]
麦二郎
6ヶ月前

『掬えば手には』瀬尾まいこ

No.1772 2023年5月10日読了 瀬尾まいこ作品は、結構沢山読んでいます。僕が読んだ作家さんで数的には10番目の作家さん。感覚的には女性の作家さんの本を沢山読んでいる気がしていましたが、ベスト10だけを見てみると、男女比は5対5なのでした。 瀬尾まいこ作品で初めて読んだのは、『天国はまだ遠く』で、2008年のことでした。たまたま映画も観ましたが、好きな作品です。今回読んだ『掬えば手には』で16作品目です。 作品全般で言えるのは、やさしい物語、ほっこりする物語、良い人しか出て来なくて安心して読める物語、こういうのが瀬尾まいこ作品に言える特徴なのかも知れません。文章も読み易くて、抵抗を感じ[…]
麦二郎
7ヶ月前