小説

『光のとこにいてね』一穂ミチ

No.1791 2023年7月17日読了 2023年本屋大賞第3位。一穂ミチさんの本は、『スモールワールズ』を2年前に初めて読み、この本が2冊目。『スモールワールズ』の後で、『砂嵐に星屑』や『パラソルでパラシュート』などが出版されて、気になっていたものの、結局読まなかった。今回は本屋大賞ノミネートと言うことで、図書館で順番待ちして読んでみました。もっと早く読みたかった、と言うのが正直なところですが、特に読む時期は本の内容とは無関係です。 この本の感想は、とても書きにくい。僕の薄っぺらい言葉で表現できるものでもないですし、この本の二人の主人公のことを理解できているかと言うとそうではないのです。描[…]
麦二郎
8ヶ月前

『図書館のお夜食』原田ひ香

No.1790 2023年7月12日読了 本と食をモチーフとした物語。この図書館は私設図書館で、有料で、しかも夜しか開館していない。多くの人に来てほしくない図書館なのだ。タイトルに「夜食」とあるように、この図書館で従業員向けに提供される食事も面白い。名のある作家の本に登場するお料理なのである。 夜しかやっていない図書館なんて、ミステリアスに決まっている。しかも従業員も何だか謎めいている。秘密を抱えている。 何とこの本のカバーの裏側には、この本に登場した料理のレシピが印刷されていました。でも、個人的にはお料理よりもこの図書館の経営者が気になっていました。 新しくこの図書館の従業員となった樋口乙葉[…]
麦二郎
8ヶ月前

『夜空に浮かぶ欠けた月たち』窪美澄

No.1785 2023年6月28日読了 先日窪美澄さんの『夜に星を放つ』を読んで、非常に良かった印象があるので、この本が出版されていることを知り、さっそく買って読むことにしました。タイトルも「夜」が共通で「月」と「星」が似通っています。短編集なのも共通していますが、こちらの方がもっと繋がって、一つの物語になっていました。 6つの短編と短いエピローグで構成されています。6つの短編の共通点は、喫茶店と「椎木メンタルクリニック」で、内容的には心を病んだ人達が主人公と言うことです。「病んだ」と言う言葉は適切ではないかも知れません。傷付き、心の風邪を引いてしまった人達を癒やし、そして自ら再生して行く物[…]
麦二郎
9ヶ月前

『永遠と横道世之介(上)』吉田修一

No.1783 2023年6月14日読了 『横道世之介』は、2009年9月に出版され、2012年1月に読んだ。『続 横道世之介』は、2019年2月に出版されており、この本はそれから4年くらい経っている。『横道世之介』のインパクトが大きかったので、続編が出ると買って読んでしまう。今回は上下巻に分かれている長編だけど、やっぱり買ってしまった。それだけ魅力を感じているのだろうけど、おそらく横道世之介に会えるのはこの本が最後じゃないかと思う。 ある意味、完結編なのだと思っているからだ。 内容 上下巻に分かれていて、上巻を読み終えた。横道世之介のある1年間を描いているようで、上巻は9月から翌年2月の物語[…]
麦二郎
9ヶ月前

『天使も怪物も眠る夜』吉田篤弘

No.1779 2023年6月2日読了 2019年7月に出版された本。螺旋プロジェクトと称された8人の作家の8冊の本で、「海族」と「山族」の対立の絵巻物。時代は原始から未来へ続く物語で、この本は最終章で2085年頃から2095年頃までを舞台とした物語です。他の7冊の本は、2019年の秋には読み終えていたのですが、この本は途中で挫折してしまって、長い間本棚の積読本になっていました。積読本の中でも一番古いものだったのですが、今回「積読本一掃プロジェクト」を始めて、とうとう読み終えることができました。 ちょっと感慨深い心境になり、達成感に浸っています。ちなみに去年の11月に文庫本でも発売されているよ[…]
麦二郎
10ヶ月前

『DRY』原田ひ香

No.1778 2023年5月26日読了 原田ひ香さんの本は、これで15冊目になります。目をつけている文庫本が2冊、図書館で予約している単行本が3冊ありますから、20冊突破は近いかも知れません。最初に読んだのは、2018年2月のことで、『ランチ酒』でした。因みにこれまで沢山読んだ作家ベスト10には、まだ入っていませんが、20冊を超えるとランクインでしょう。 内容について いやいや、酷い話でした。そして、気持ちが悪い。原田ひ香さんの小説でここまで重かったのは、他には無かった気がします。主人公は浮気で離婚されて、子ども達と引き離され、金銭的にも困窮している藍という女性です。祖母と母が暮らす実家に戻[…]
麦二郎
10ヶ月前

『汝、星のごとく』凪良ゆう

No.1775 2023年5月21日読了 2022年本屋大賞受賞作。2022年8月に出版されている本。発売された時に買って読もうかどうしようか迷って、結局買わなかったので、買いそびれてしまいました。なので、図書館で予約をして順番が回ってきて、読みました。本屋大賞発表以降、本屋さんには沢山平積みされていて、一昨日も本屋さんでその光景を見て、「凄いなあ」と思ったものです。 内容 瀬戸内海の島で暮らす井上暁海とその島に母とともに移住してきた青埜櫂の17歳から32歳くらいまでの物語です。青埜櫂は、母親から離れて暮らすため、東京に出て漫画の原作者になります。井上暁海は、島から出て暮らしたいと考えますが、[…]
麦二郎
10ヶ月前

『掬えば手には』瀬尾まいこ

No.1772 2023年5月10日読了 瀬尾まいこ作品は、結構沢山読んでいます。僕が読んだ作家さんで数的には10番目の作家さん。感覚的には女性の作家さんの本を沢山読んでいる気がしていましたが、ベスト10だけを見てみると、男女比は5対5なのでした。 瀬尾まいこ作品で初めて読んだのは、『天国はまだ遠く』で、2008年のことでした。たまたま映画も観ましたが、好きな作品です。今回読んだ『掬えば手には』で16作品目です。 作品全般で言えるのは、やさしい物語、ほっこりする物語、良い人しか出て来なくて安心して読める物語、こういうのが瀬尾まいこ作品に言える特徴なのかも知れません。文章も読み易くて、抵抗を感じ[…]
麦二郎
10ヶ月前

『自転しながら公転する』山本文緒

No.1771 2023年5月8日読了 山本文緒さん作品は、これで3冊目。最初に読んだのが『アカペラ』で、2013年のこと。それから長い時間が経って、亡くなられたことを知り、『無人島のふたり』を読んだのが、今年の1月のことだ。だから、まだまだ読み込んでいない作家さんなのだけど、この『自転しながら公転する』を読んでみて、もっと読みたくなったのでした。 内容 主人公の都は、牛久大仏に近い茨城県のアウトレットモールの洋服屋さんに勤める30代前半の女性、独身。この設定からして、その倍くらいの年齢の男性が読む本じゃないかも知れないと、恐る恐る読んだせいか、最初はページが進みませんでした。ゴールデンウィー[…]
麦二郎
10ヶ月前

『ある男』平野啓一郎

No.1767 2023年4月29日読了 そんなに時間が経っていないと思っていたのだけど、著者の本を初めて読んだのは、読書記録を調べてみると2019年の秋だった。読んだのは、『マチネの終わりに』だった。読むのに時間がかかる長い小説だったけれど、印象は強かったと思う。今となっては、そのストーリーの詳細を思い出すことはできないけれど。 内容 小説なので、ネタバレにならない程度に書こう。本の帯に書いているコピーだ。「愛したはずの夫はまったくの別人だった」そう、そういう物語だ。その謎をこの物語の主人公、弁護士の城戸が追いかける。 事件性のあるミステリー物ではなく、ある男や本人の人生を描き出している物語[…]
麦二郎
11ヶ月前

『街とその不確かな壁』村上春樹

No.1766 2023年4月26日読了 村上春樹さんの久々の長編小説が出ることを、その直前に知り、Amazonで予約していました。そして、発売日当日に届き、その翌日頃から読み始めました。 村上春樹さんの小説は全部読んでいるわけではないです。いわゆるハルキストではないのですが、最近は新刊が出ると読んでいます。たぶん、2013年頃の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』あたりからでしょうか。この『街とその不確かな壁』が6年振りとかですから、新刊が出るとと言うのが適切かどうかは自信がありませんが。 過去にも新刊が出て、単行本を買ったものの、読まずに挫折したものもいくつかあります。濃密だから、[…]
麦二郎
11ヶ月前

『サンドの女 三人屋』原田ひ香

No.1762 2023年4月5日読了 今月2冊目の読了本。連続して原田ひ香作品でした。シリーズ最初の『三人屋』では、三女の朝日が喫茶店、次女のまひるが讃岐うどん屋、長女の夜月がスナックを営んでいた。朝昼夜交代で、父親から譲り受けた店で。「シリーズ」と書いてしまったが、次回があるのかどうかは不明だったりする。この『サンドの女 三人屋』は、2021年2月に出版されていて、割と新しい。続編は今年かも知れないし、ずっと先かも知れないし、これで終わりかも知れない。 この本の中身 お店の経営形態は、ちょっと変わっていた。三女の朝日が就職したため、次女が朝から昼にかけてサンドイッチを販売しているという形態[…]
麦二郎
11ヶ月前

『アイビー・ハウス』原田ひ香

No.1761 2023年4月1日読了 初出は、2012年の『群像』。2013年に出版されているので、10年以上前の作品と言うことになる。今回読んだのは、講談社文庫。文庫本ではたまに見かけるが、カバーの上に新しいカバーが掛かっている。新しいカバーは、この物語に登場するふた組の夫婦、4人の人物の関係がイラストで描かれていて、物語の内容を示している。 内容 3階建ての一軒家には、蔦が絡まっていて、そこで暮らす4人の間では「アイビー・ハウス」と呼ばれている。1階は共同のスペース。2階が派遣プログラマーの一樹35歳と喫茶店アルバイトの未世子32歳の夫婦が暮らす場所。3階には、会社員の隆35歳とフリーラ[…]
麦二郎
12ヶ月前

『神さまのビオトープ』凪良ゆう

No.1760 2023年3月29日読了 凪良ゆうさんは、BL(ボーイズラブ)作品の作家としてデビューし沢山の著作があったが、一般文芸小説作品として2017年に、この作品を刊行された。本屋大賞の『流浪の月』を読み、『わたしの美しい庭』、『滅びの前のシャングリラ』と読んだのですが、過去の作品を読みたくなって、この本を読んだと言うわけです。最新刊は『汝、星のごとく』ですが、刊行された時に買いそびれたので、図書館本を予約しているところです。 独自の世界観があり、読み出したら引き込まれてしまいます。 この本の内容 この本の主人公は、鹿野うる波という女性。夫に事故で先立たれて、夫の幽霊と一緒に暮らしてい[…]
麦二郎
12ヶ月前

『ギリギリ』原田ひ香

No.1757 2023年3月19日読了 3日前に読み終えた本のことを、まだ書いていなかったことに気付いたので、書いておくことにします。このところ結構沢山読んでいる原田ひ香さんの作品です。この本は文庫本ですが、2018年11月に出版されているので、結構古い作品です。単行本としては、2015年なので8年前の作品ということになります。 この本の内容 夫を亡くした瞳さんと、再婚相手の同級生の健児さん、そして亡くした夫の母の静江さん、この3人の視点で描かれている物語です。ちょっと微妙な関係です。再婚相手の健児さんと、前夫の母親の静江さんが結構仲が良かったりするのですから。 かと言って、ほんわかとした温[…]
麦二郎
去年

『一橋桐子(76)の犯罪日記』原田ひ香

No.1755 2023年3月14日読了 読書の楽しみは、「面白かった」「良かった」「感動した」などと思える本と出会うことができるところでしょうか。重厚長大なテーマだけが感動的なわけではなく、ユーモラスな作品だけが面白いと思うわけでなく、感じることはそれぞれ複雑なのですが、いずれにしても「読んで良かった」と思える本に出会えることは、とても嬉しいことです。 この本は、久々のヒットです。読者としての立場から見たヒット作なのです。このところ原田ひ香作品で文庫本になった本を買い漁っている感じですが、ますますいろいろ読んでみたくなる本でした。 この本の内容 主人公は76歳ですから、そこそこの高齢者。血の[…]
麦二郎
去年

『ワンダーランド急行』荻原浩

No.1754 2023年3月13日読了 荻原浩さんの本は、新刊が出るとすぐに買って読むことにしています。奥さんも好きな作家なので、二人で交代で読むので、経済的かも知れません。前に読んだのは巨大カマキリが出てくる『楽園の真下』で、2021年の夏でしたから、かなり久々の荻原浩作品です。長編で、400ページ超の分厚い本です。 この本の内容 ある朝、主人公は通勤とは逆方向の電車に乗ってしまいます。そこから始まる異世界(ワンダーランド)の旅というのが、この本の内容です。良くありそうなお話だと思います。良くありそうなのは、通勤とは逆方向の電車に乗りたくなることです。現実からの逃避でしょうか。 この物語は[…]
麦二郎
去年

『ゆうべの食卓』角田光代

No.1753 2023年3月4日読了 読書メーターに登録した読んだ本の著者ナンバー1が、実は角田光代さんです。読んだ本の数は、68冊とダントツのトップです。第2位は伊坂幸太郎さん、40冊。第3位が、荻原浩さんで、33冊と続きます。 角田光代さんは、初期の何作か読んでないものがあるものの、出版された本のほとんどを読んでいます。ただ、最近の作品は読めてなくて、この『ゆうべの食卓』はかなり久しぶりに読んだ作品です。 この本の内容 雑誌「オレンジページ」の2020年7月2日号から2023年2月17日号に連載された短編小説を集めたものです。3つの短編で1つの物語という形になっています。物語は11収録さ[…]
麦二郎
去年

『ランチ酒 今日もまんぷく』原田ひ香

No.1752 2023年3月1日読了 仕事が忙しかったせいか、ずっとブログを更新できませんでした。書いた日と読んだ日が、あまりにもかけ離れてしまうので、投稿日付を調整しておくことにします。 原田ひ香さんの小説をいくつか読んできましたが、今や気になる作家さんの一人です。過去1年間に読んだ本の著者のナンバー1です。読書メーターに登録している本の全期間で言うと、まだまだですが、7冊も読んでいます。今年はもっと読むだろう作家さんです。 この本の内容 ストーリーには触れませんが、短編でありながら、お話は繋がっています。なので、「ランチ酒シリーズ」の2作目を読んで、すぐにこの3作目を読みたくなったのです[…]
麦二郎
去年

『ランチ酒 おかわり日和』原田ひ香

No.1751 2023年2月25日読了 グルメドラマと言えば、「孤独のグルメ」というイメージで、要するに美味しいお店で美味しいものを食べるだけ、そんな先入観があるかも知れません。この小説は、おいしいランチとお酒だけの小説ではありません。このシリーズの始まりの『ランチ酒』は残念ながらストーリーを忘れてしまいましたが、この本を読んで、一連のストーリーがある長編小説だと感じました。 この本の内容 ネタバレになるので、小説のストーリーについては詳しく書かないことにします。主人公の犬森祥子は、「見守り屋」という変わった職業です。そう言う意味では、原田ひ香さんの「職業小説」のジャンルにも入りそうです。「[…]
麦二郎
去年