小説

『ランチ酒 おかわり日和』原田ひ香

No.1751 2023年2月25日読了 グルメドラマと言えば、「孤独のグルメ」というイメージで、要するに美味しいお店で美味しいものを食べるだけ、そんな先入観があるかも知れません。この小説は、おいしいランチとお酒だけの小説ではありません。このシリーズの始まりの『ランチ酒』は残念ながらストーリーを忘れてしまいましたが、この本を読んで、一連のストーリーがある長編小説だと感じました。 この本の内容 ネタバレになるので、小説のストーリーについては詳しく書かないことにします。主人公の犬森祥子は、「見守り屋」という変わった職業です。そう言う意味では、原田ひ香さんの「職業小説」のジャンルにも入りそうです。「[…]
麦二郎
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『人生オークション』原田ひ香

No.1740 2023年1月27日読了 原田ひ香さんのお仕事小説でした。ちょっと変わったお仕事が特徴かも知れません。短編小説が二つ収録されています。 最初は本のタイトルになっている「人生オークション」です。主人公の叔母さんが離婚して一人になり、オークションで生計を立てるという話で、主人公がそれを助けるのです。「人生」が付いているのは、山のような荷物をオークションで減らして行く、ミニマリストではないのですが、減らした分だけまさに人生が軽くなって行く話なのです。お仕事と言って良いかどうかは、迷うところです。 もう一つの話「あめよび」は、ラジオ番組のハガキ職人と付き合っている主人公の話です。主人公[…]
麦二郎
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『夏の体温』瀬尾まいこ

No.1736 2023年1月20日読了 「夏の体温」と「魅惑の極悪人ファイル」、「花曇りの向こう」の3つの短編集。最後の短編は、特に短くて10ページ弱。 どれも「ともだち」をテーマにした作品だと思った。「夏の体温」は1か月以上入院している小学校3年生が主人公。その病院には身長が伸びない子供たちが検査入院してくる。ほとんどは主人公よりずっと年下の子たちなのだけど、ある日同学年の子が入院することに。 「魅惑の極悪人ファイル」が一番面白かった気がする。大学生の小説家が、悪い人をテーマにした小説を書こうと、「腹黒」というあだなの大学生に取材する話。主人公の小説家は女性で、「腹黒」は男性なのだけど、恋[…]
麦二郎
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『リバー』奥田英朗

No.1719 2022年11月12日読了 約650ページの大作でしたが、飽きさせないのは、さすが奥田英朗さん。久々長編小説を楽しんで読むことができました。 栃木県と群馬県の県境を流れる渡良瀬川を舞台とした小説です。ある日渡良瀬川の河川敷で若い女性の死体が発見されます。十年前の連続殺人事件と同じ手口の殺人事件でした。栃木と群馬の両県の警察が動き始め、3人の容疑者が浮かび上がります。刑事達と退任した元刑事、十年前の被害者の父親がそれぞれに犯人を追いかけるミステリーです。 ミステリー作品なので、これ以上は語りません。それにしても長い小説でしたが、飽きないで読むことができたのは、奥田英朗さんの上手さ[…]
麦二郎
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『神曲』川村元気

No.1714 2022年10月18日読了 なんてタイムリーな作品だろうかと思ったのは、6月に読んだ『同志少女よ、敵を撃て』の時と同じでした。両方ともタイムリーな出来事が起こる前に書かれている作品なので、それもまた不思議だと思いました。 ある家族が宗教に巻き込まれていき、親が信者となったがために自分も信じようとする2世信者が描かれています。今現実に問題視されていることほど、悲惨な状況ではありません。少なくとも献金によって家庭が崩壊したとか、子供が自殺に追い込まれたとか、そういう場面はありません。お金の問題や家庭崩壊の問題などではなく、心の問題と言った方が良いのかも知れません。 この物語に描かれ[…]
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『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子

No.1712 2022年10月2日読了 芥川賞受賞作品は、あまり読まない方だと思います。何となく難しいイメージがあって、読まず嫌いかも知れません。受賞作品だから読んでみようという気にならないのです。本屋大賞受賞作は読んでみたいと思うのですが。でも、この本は読みたくなりました。何となく面白そうな予感がしました。 読んでみて、なるほどこういう小説だったのか、という感じです。期待どおりと言えば、期待どおりです。職場の人間関係を描いているところが、何だかどこかにありそうな感じがして、面白いのです。 物語は食べることに無頓着な男性社員二谷と、料理上手だけど仕事はできない女性社員芦川、そして仕事ができて[…]
麦二郎
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『ミチルさん、今日も上機嫌』原田ひ香

No.1711 2022年9月28日読了 解説に「ちょっと変わったお仕事シリーズ」と書いてあって、なるほどと思いました。前に読んだ『東京ロンダリング』は、事故付き物件に住む仕事でした。この物語は、家賃値下げ交渉屋さんです。それは、それとして、この物語はとても面白かったです。そして、何だか明るくなる物語でした。 45歳、職なし、バツイチ、彼氏なしの主人公のミチルさんには、バブル期の過去の栄光があったのです。それが、今はそういう状況であり、諦め切れないのです。確かにバブル期には、就職は売り手市場だったし、ミチルさんほどの美貌なら、アッシー君だって、美味しいごはんを奢ってくれる男性だって居たのです。[…]
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『その扉をたたく音』瀬尾まいこ

No.1707 2022年9月2日読了 2021年2月頃に出版された本です。読み損ねていた本だったので、図書館で借りて来て読むことにしました。単行本が出版され、文庫本化されるまでの間は、図書館で借りるのが良いと気づきました。最近は、出版されてすぐに読むのは、伊坂幸太郎さんくらいです。余談はここまでにしておきます。 瀬尾まいこさんの作品は、どこかダメな主人公が出てきて、何かをきっかけに再生して行く物語が多い気がします。ここから少しネタバレを含みますが、この物語も同様です。 主人公は、29歳無職で親のすねかじりです。高校時代に始めたギターで人生を再開しようと思いつつ、そこまで真剣なのかどうか、自分[…]
麦二郎
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『ウェルカム・ホーム!』丸山正樹

No.1706 2022年8月30日読了 「面白かった」と安易に言えない小説ですが、ページを先へ先へと捲りたくなる本ですし、読み易い文章です。丸山正樹さんの本は、これで3冊目です。前に読んだ『ワンダフル・ライフ』は、実に衝撃的だった印象があり、今回の作品のテイストはかなり違っていると思います。 この小説は、2012年から2018年にかけて「小説すばる」に掲載された作品を1冊の本にしたもので、書かれている時期は結構前のようです。著者も「あとがき」に書かれていますが、その言葉を借りると、「特別養護老人ホームを部隊とした介護師の青年が成長していく姿を描いた物語で、コメディタッチの作品です。なので、『[…]
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『古本食堂』原田ひ香

No.1697 2022年7月1日読了 一つ前に読んだ本の読了日を見ると、この本を読むのに2週間くらいかかったことになります。とても読み易い本なので、早ければ3日くらいでは読めそうなのですが、この2週間を振り返ると、そう言えば仕事が忙しかったなと思いました。時間が足りないわけではなく、心に余裕が無い時には読書が進まなくなる人なんです。 自分のことについて、もう少し書きますが、自分はとてもせっかちな正確だと思っています。だから、この物語を読んでいると、焦れったくなってしまいます。ゆったりとしたテンポで進んで行くからです。でも、人生はそうなんだろうと思いますし、一歩ずつ、少しずつという丁寧な生き方[…]
麦二郎
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『東京ロンダリング』原田ひ香

No.1695 2022年6月12日読了 「ロンダリング」は賃貸の事故物件に住んで前の住人の居住履歴を浄化する仕事のこと。賃貸物件は前の住人のことを次の住人に伝える義務があるようで、事故が起きた物件に入居してしばらく生活をすることによって、一つ前の住人の事故履歴を隠すことができるということなのです。一定期間家賃ゼロ円で入居でき、そこで生活をしているだけで収入が得られるという仕事です。 主人公は32歳でバツイチ、家も無いりさ子という女性です。いきなり夜中に戸を叩く音がして目を覚ます主人公と訪れた女性の話から展開が始まるので、これはスリリングな出来事や、もしかすると幽霊なども出てくるホラー小説か、[…]
麦二郎
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『傑作はまだ』瀬尾まいこ

No.1693 2022年6月2日読了 この本は少し気になっていた本でした。調べてみたら、2019年3月に出版されていましたから、3年経っていることになります。文庫本になっていたので、迷わず買って読むことにしました。 血の繋がった子供が突然現れる、という設定は他にも読んだことがある気がします。現実はどうかと言うことではなく、良くある話のように思えます。父親が主人公なのですが、職業は作家。何だか世の中との関係を遮断して、作品を書いているような感じがします。 半分くらい読み進めると、やはり瀬尾まいこさんの作品だと感じ始めます。とても温かい物語で、息子もその母親も素晴らしいということがわかってきます[…]
麦二郎
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『マイクロスパイ・アンサンブル』伊坂幸太郎

No.1689 2022年5月5日読了 アンサンブルは、合奏、重奏という意味だから、タイトルの意味はわかるような気がします。この小説は2015年から開催されている猪苗代湖を舞台とした音楽&アートフェスティバルで配布していた短い小説を集めて本にしたものとのこと。フェスティバルの名称は、「オハラ☆ブレイク」。「オハラ」は、会津地方の民謡「会津磐梯山」に登場する人物「小原庄助」さんの「オハラ」、「ブレイク」は「休息」のことのようです。この小説には歌詞が使われているのですが、きっとフェスティバルに参加していたミュージシャンの曲だと思います。Theピーズとtomovskyというミュージシャンなのですが、[…]
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『そのマンション、終の住処でいいですか?』原田ひ香

No.1687 2022年5月1日読了 好きな本を好きな時に、好きなだけ読むことにしょうと考え、読書量だけを目標にしないようにしたら、全然読めなくなってしまいました。仕事が忙しかったこともありますが、今日は何ページは読んでおこう、みたいな目安も無しにしてしまったので、ほんのちょっとずつしか読めなかったのです。でも、しばらくは好きな本を好きな時に、好きなだけ読むことにします。 さて、かなり日数がかかった本でしたが、決して面白く無いからではありません。そのタイトルやこれまで読んだ原田ひ香さんの小説から想像していたのとは、ちょっと違った感じの物語でした。読み終えてみると、やはりどこかに原田ひ香さんな[…]
麦二郎
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『正欲』朝井リョウ

No.1685 2022年4月13日読了 実に前回養老孟司さんの『まるありがとう』を読み終えて、半月以上経って久々読了した本です。並行して読んでいる本、小川糸さんの『針と糸』もありますが、読書量から言うと急ブレーキがかかったようです。仕事が結構忙しくて心に余裕が無かったこともありますが、そればかりではありません。読みたいと思った本を、読みたいと思った時に読もうと決めたことが影響しているかも知れません。要するにこれまで月何冊読もうとか、3日で1冊読もうとか、そればかりを思って量に重きを置いていた気がして、それを取っ払ってみたわけです。 前置きが長くなりました。さて、この本ですが、決して読みにくい[…]
麦二郎
2年前

『地球星人』村田沙耶香

No.1681 2022年3月5日読了 昨日残り70ページくらいまで読み終えていて、今朝少し読もうかなと思いページを捲っていたら、一気に最後まで読んでしまいました。「読んでしまった」というのが本当のところなのです。そういう本だったと思います。 始まりは普通だったかも知れません。いや、ちょっとどこかに違和感を感じていたかも知れません。小学生の女の子が主人公で、お盆に親戚が祖父母の家に集まります。女の子はいとこの少年に恋心を抱いています。ページを捲って行くに従って、違和感は大きくなり、何だか怪しい雰囲気を感じてきます。途中で突然主人公が大人になっている場面へチェンジします。その印象が記憶に残ってい[…]
麦二郎
2年前

浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』

No.1677 2022年2月23日読了 この本を読んでみたいと思ったのは、「読書メーター」のランキング上位だったことと、本屋さんで良く見かけていたからです。「本屋大賞」にもノミネート作品として選ばれている本の一つです。 正直なところ、このジャンルの本はそれほど沢山読む方ではありません。特に本格推理小説みたいなジャンルだとそうなんですが、この本は殺人事件などの大それた犯罪の犯人を推理させるものじゃなさそうなのも、読んだ理由かも知れません。 さて、読んでみた感想ですが、非常に面白く、そして楽しく読ませていただきました。これから読もうと思っていらっしゃる方のため、ストーリーについては触れません。個[…]
麦二郎
2年前

『赤と青とエスキース』青山美智子

No.1676 2022年2月18日読了 青山美智子さんの経歴を見ると、ワーキング・ホリデーでオーストラリアに行き、その後ビジネスビザを取得して日系新聞社で2年間の記者をされています。その経験が活かされた作品かも知れません。この物語がオーストラリアで始まるからという単純な連想なんですが。 このところ青山美智子さんの作品を立て続けに読んでいる気がします。この本を読み終えたので、あと読んでいないのは、『ただいま神様当番』だけでした。2020年の作品なので、文庫本化されたら読むことにします。 オーストラリアに留学した女性と両親が日本から移住して来てオーストラリアで育った男性の物語です。恋愛小説と言う[…]
麦二郎
2年前

『鎌倉うずまき案内所』青山美智子

No.1673 2022年2月6日読了 最後の超短編を除いて、60ページくらいの短編が6つで構成されています。昭和64年から令和元年までの物語を新しい方から遡って行く形式になっています。つまり、平成の時代を描いていると言うことです。 全てに共通するのは、鎌倉うずまき案内所という不思議な案内所です。何かにはぐれた主人公が迷い込むと、あるアイテムが示されます。主人公を導くアイテムです。「猫のお告げ」に似ているかも知れません。 鎌倉を舞台としているので、この物語で描かれているのは、もしかするとあの辺りかなと考えながら読みました。そこまでリアルには書かれていませんが、もちろん有名なお寺や神社の名前は出[…]
麦二郎
2年前

『猫のお告げは樹の下で』青山美智子

No.1669 2022年1月29日読了 それぞれの悩みを抱える人達が、とある神社を訪れると、お尻に星のマークがついた猫がお告げを授けてくれます。猫のお告げはタラヨウの葉っぱの裏に書かれていて、それを手にした人はラッキーな人なのです。そのお告げは、キーワードだけで、それが何を意味するのかは自分で探す必要があります。そんなラッキーな人は7人です。 失恋した相手を忘れたい美容師だったり、中学生の娘と仲良くなりたい父親だったり、なりたいものが分からない就活生、夢を諦めるべきか迷っている主婦などが主人公です。それぞれの悩みが解消すると言うよりも、それぞれの悩みの種の受け止め方だったりします。キーワード[…]
麦二郎
2年前