『ミチルさん、今日も上機嫌』原田ひ香

麦二郎
麦二郎

No.1711 2022年9月28日読了

解説に「ちょっと変わったお仕事シリーズ」と書いてあって、なるほどと思いました。
前に読んだ『東京ロンダリング』は、事故付き物件に住む仕事でした。この物語は、家賃値下げ交渉屋さんです。
それは、それとして、この物語はとても面白かったです。
そして、何だか明るくなる物語でした。

45歳、職なし、バツイチ、彼氏なしの主人公のミチルさんには、バブル期の過去の栄光があったのです。
それが、今はそういう状況であり、諦め切れないのです。
確かにバブル期には、就職は売り手市場だったし、ミチルさんほどの美貌なら、アッシー君だって、美味しいごはんを奢ってくれる男性だって居たのです。

対称的なのは、これからと言うところの女子大生の優奈さんです。
でも、優奈さんはいろんなバイトを経験しつつ、安心できない状態で、自分がどんな道を歩むのかを模索中なのです。

ミチルさんは、そんな優奈さんと話をしていて、ふと感じます。

「ミチルは今、何かから脱却したことを感じた。自分よりずっと美しい、ずっとモテる女の子の前で体から何かが抜け落ちていった。でも、それは喪失感や失望ではなくて、これからずっと楽に生きていける切符を手に入れたような、力の抜けたような喜びだった。」

この文章が印象的でした。
この物語は、ミチルさんが新しい人生をスタートさせる物語だったのです。
或いは別れの物語なのかも知れません。
僕はそう感じました。そして、とても面白い小説だと思いました。

麦二郎

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