小説

『じい散歩』藤野千夜

No.1864 2024年4月14日読了 このところの2週間ばかり、読書はほとんどできていませんでした。この本を少しずつ読み進めていた以外は、ほとんど読めていません。新しい年度始まりに、読書にエンジンをかけようと思っていたのですが、思いどおりには行かなかったようです。時間が無かったわけではないのですが、少々仕事が忙しくて、気持ちに余裕が無かったのだろうと思っています。 さて、本題に入りましょう。この本を買った時に、期待していた内容とは、どういうものだったか。おじいさんが散歩をしている途中で出会った人や起こった事が、ユーモラスに描かれている短編小説をイメージしていました。 全然違っていました。お[…]
麦二郎
5日前

『お帰り キネマの神様』原田マハ

No.1851 2024年2月21日読了 2011年に出版された『キネマの神様』は、山田洋次監督により映画化され、2021年に公開された。映画は原作を大幅に書き換えていたようだが、その映画を元にノベライズされたのがこの『お帰り キネマの神様』だ。今回読んだのは文庫本だけど、『キネマの神様 ディレクターズカット』という単行本が2021年に出版されている。この単行本の文庫化なんだと思う。 時は令和元年秋、円山郷直とその家族の暮らしから入る。郷直ことゴウは、酒と博打で年金もシルバー人材センターを通じた僅かな収入も使い果たす生活。娘は孫と一緒に出戻って、妻も含めて家族4人で暮らしている。 時を遡り、昭[…]
麦二郎
先月

『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈

No.1841 2024年2月2日読了 『成瀬は天下を取りにいく』の続編。相変わらず成瀬のキャラは面白い。「ときめきっ子タイム」と「成瀬慶彦の憂鬱」、「やめたいクレーマー」、「コンビーフはうまい」、「探さないでください」の5編が収録されている。「やめたいクレーマー」は「小説新潮」掲載作品で、他は書き下ろし作品。 どんどん成瀬ファンが増えていく。小学生、高知から来た受験生、クレーマーの主婦、びわ湖大津観光大使の女性など。そして成瀬の親友の島崎は健在。 変わっていて、他には知らないキャラである成瀬の魅力満載といったところ。とぼけているかのような変に真面目な面が際立っている。その時は関わりたくないと[…]
麦二郎
2ヶ月前

『星を編む』凪良ゆう

No.1839 2024年1月30日読了 「春に翔ぶ」と「星を編む」、「波を渡る」の3編の小説が収録されている。凪良ゆうさんの小説は、何だかんだでだいたい単行本が出たら買って読んでいる。『流浪の月』も初めて読んだ、他には無さそうな小説だったと思うが、『汝、星のごとく』はある意味衝撃的な作品だったと思う。こんなにすごい小説を書けるなんて、凪良ゆうさんって何者なんだと思ったものだ。 あれから少し時間が経って、すっかり『汝、星のごとく』を忘れていた気がする。でも、この『星を編む』が出版されて、迷わず買って読みたいと思った。そして、今回読んでみて、『汝、星のごとく』のスピンオフだと聞いていたけれど、サ[…]
麦二郎
2ヶ月前

『踏切の幽霊』高野和明

No.1838 2024年1月28日読了 読み応えのある作品で、直木賞候補になった作品というのは、頷けました。この作品のことをどこで知ったのか、忘れましたが、気になった頃図書館で予約をして、長い間待って、やっと読めました。こういう読み応えのある本と出会うと、本当に読んで良かったと思います。 ミステリー作品なので、ネタバレは避けたいと思います。なので抽象的な感想になってしまうかも知れませんが、とても哀しい物語でした。感じ方によっては、いろんな面で人間の哀しさを目の当たりにしてしまいます。読後感が悪いかと言うと、やっぱり救われるものはあったのか、そんなに悪くはありません。すっきりしたかと言うとそう[…]
麦二郎
2ヶ月前

『最後は会ってさよならをしよう』神田澪

No.1835 2024年1月21日読了 Twitterで140文字のショートショートを発信している方の作品集的な本。巻末に書き下ろしの短編や中編小説、エッセイがおまけでついてくる感じです。 ショートショートは、中には笑えるものもありますが、だいたいは恋愛関係でしょうか。1ページ1作なので、ぱらぱら捲る感じで読めてしまいます。そういう読み方はしない方が良いのでしょう。ひとつひとつ読み込まないと、読めないのかも知れません。流してしまうと、印象に残らなかったりします。 私の場合短編よりも長編好きなのですが、興味があったので読んでみました。やっぱり、それなりに長いのが好きです。物語の核心へと徐々に進[…]
麦二郎
3ヶ月前

『椿ノ恋文』小川糸

No.1823 2023年12月28日読了 『椿ノ恋文』は、小川糸さんのツバキ文具店シリーズの3作目。鎌倉の二階堂辺りにあるツバキ文具店の店主鳩子さんが主人公です。前作の『キラキラ共和国』は、2017年10月発売でしたから、6年振りの新作です。 鳩子さんと夫、その連れ子のQPちゃんの3人家族だったのが、小梅と蓮太朗の二人が増えて5人家族になっていました。二人の育児のため、代書屋は休業していて、今回再開するという設定になっています。鳩子さんは、先代の祖母の代書屋を引き継いでいて、依頼者が伝えられない思いを代わりに伝える手紙を書くのです。 手紙がモチーフになっている物語ですが、今回は祖母の道ならぬ[…]
麦二郎
3ヶ月前

『喫茶おじさん』原田ひ香

No.1821 2023年12月23日読了 主人公は、バツイチで無職、57歳のおじさん。大手ゼネコンを早期退職して、退職金で喫茶店を開業するも、早々に潰してしまい、二番目の妻とは別居状態。何ともふがいない設定の主人公だが、何となく脳天気感が漂っていたりする。もちろん、自分の人生をそれなりに考えているようだ。その場所は純喫茶。 そんな主人公の1年間の物語で、一月から十二月までの短編形式の物語とエピローグで構成されている。最初はどうだろうという感じだったが、終盤に向かって徐々に面白さが増してくる感じ。会社の同僚だった友人とか、前妻、別居中の妻と娘、開業する前に専門学校で知り合った女性、開業中に雇っ[…]
麦二郎
3ヶ月前

『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈

No.1819 2023年12月7日読了 主人公は、成瀬あかり。滋賀県大津市生まれ、同市在住。いやいや、主人公のキャラがとんでもなく面白い。「天下を取る」と言い出しそうなキャラである。その主人公をずっと見守ってきたのが、島崎みゆき。同じマンションに住んでいる。 物語は、6つの短編により構成されている。短編それぞれ目線は変わる。そのほとんどが成瀬が主人公なんだけど、1つだけ違っている。「階段は走らない」という短編だ。ちらりと、端役のように成瀬が写っている感じだ。 成瀬の中学2年生から高校3年生までが描かれているのは、連作短編と言って良いだろう。とにかく成瀬は変わったキャラなんだけど、それがとても[…]
麦二郎
4ヶ月前

『八月の御所グラウンド』万城目学

No.1818 2023年11月29日読了 万城目学さんは、『ザ・万歩計』というエッセイから入って、『鴨川ホルモー』を読んで、はまった作家さんです。そう言えば最近全然読んでないと思っていたのですが、2017年に出版された『パーマネント神喜劇』を読んで以来でした。調べてみると、『パーマネント神喜劇』以降の小説は2作しか出版されていないようです。2021年と2022年に1作ずつです。しかも本屋さんでは全然目にした記憶が無かったりします。読みそびれた作品は、そのうち図書館で借りて読もうかなと思っています。 さて、久々の万城目学作品ですが、この本には2つの小説が収められています。ひとつは「十二月の都大[…]
麦二郎
4ヶ月前

『私たちの世代は』瀬尾まいこ

No.1817 2023年11月25日読了 瀬尾まいこさんの本を初めて読んだのは、2008年11月のことでした。今から15年前ということになります。読んだのは、『天国はまだ遠く』でした。文庫本になってました。はっきりと覚えていないのですが、多分映画を観たのがきっかけだったと思います。それから、いろんな本を読み、最近では新刊が出るとすぐに読むことにしている作家さんの一人です。 コロナ禍の頃に小学三年生の二人の少女が主人公です。二人の物語と未来の話が交錯しながら始まり、良くある手法だとは思いますが、二人の物語がある時点から一つになります。瀬尾まいこさんの物語には特別な伏線やその回収というミステリー[…]
麦二郎
4ヶ月前

『777 トリプルセブン』伊坂幸太郎

No.1816 2023年11月12日読了 読み終えると、次の作品が出ないかなと思ってしまいます。殺し屋シリーズの第4作目です。『グラスホッパー』、『マリアビートル』、『AX アックス』に続く第4作です。最近ビデオで『マリアビートル』を原作とした『ブレットトレイン』という映画を観たのですが、あの舞台は新幹線でしたが、今回はホテルが舞台でした。『マリアビートル』がどんなストーリーだったか覚えていないのですが、映画と比べるとあの映画のホテル版が今回の『777』だと思います。 主役は「天道虫」、最も運の悪い人です。とても楽な仕事だった筈が、いつの間にか他の仕事に巻き込まれて、大変な目に遭うのです。物[…]
麦二郎
5ヶ月前

『うたかたモザイク』一穂ミチ

No.1815 2023年11月9日読了 13編の短編小説集。数ページの短いものから、長くても40ページ弱くらいの短編小説が収録されています。最後の1作は書き下ろしで、他は雑誌やフリーペーパー、ウェブに掲載された作品を集めています。5つに分類されていて、それぞれsweet , spicy , bitter , salty , tastyという分類になっています。味そのものではなく、人生の味わいと言った感じでしょうか。どの作品も似通ってなくて、いろんな味わいがある、そんな短編集だった気がします。 特に面白かったのは、2つ。猫が出てくる短編です。一つは「レモンの目」。マンションに現れる黒猫を通じた[…]
麦二郎
5ヶ月前

『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』原田ひ香

No.1813 2023年11月4日読了 原田ひ香作品、連続読みです。『老人ホテル』もこの本も、図書館で借りたものなので、返却のため優先して読んだのでした。直近の新刊は、出たら買って読もうと思っているのですが、新刊の時に読み損ねた本は図書館で借りて読むことにしました。 6つの話が収録されている短編小説集でした。母親からの小包がモチーフになっています。一つだけそうでないのも混ざっていますが。ありそうな話と、ありそうなエピソードばかりだと思いますが、そういう話が原田ひ香作品の面白いところなのかも知れません。想像を絶するあり得ない話ではなく、身近だということ。そして、それが現実だと嫌だなと思う気持ち[…]
麦二郎
5ヶ月前

『老人ホテル』原田ひ香

No.1811 2023年10月30日読了 このところ、原田ひ香率が非常に高くなっている。それにしても多作な作家さんだ。もう新刊が出てしまった。 この本は、2022年10月30日出版の本。と言うことは、ちょうど1年前だったりする。買いそびれた新刊だった本を、最近は図書館で借りて読んでいる。この本は、ずいぶん長い待ち行列だったということになる。 原田ひ香さんの小説には、嫌な人が結構出てくる。良く読む作家さんで比べてみると、瀬尾まいこさんの小説には嫌な人はほとんど出て来ない。対極と言っても良いくらい。 主人公は、天使というキラキラネームの女性。家庭に恵まれず、高校は中退していて、キャバクラに勤める[…]
麦二郎
5ヶ月前

『財布は踊る』原田ひ香

No.1809 2023年10月13日読了 母子家庭で育った葉月みづほは、お金に恵まれていなかったことから、高校時代に流行った長財布を手にすることが無かった。結婚して夫と子どもの3人家族であるが、今は夫の稼ぎだけで暮らしているので、生活はギリギリというところだろうか。みづほはそれでも節約をして、買いたいものも我慢してハワイ旅行に行けるだけの貯金をする。そして念願かなってハワイ旅行に出掛け、憧れのルイ・ヴィトンの財布を手に入れた。その大切な財布は、残念ながら長くみづほの側に置いておけなかった。 物語はこういうところから始まり、いろいろな人とお金の物語が展開して行く。ネタバレになるので、詳細は書か[…]
麦二郎
6ヶ月前

『口福のレシピ』原田ひ香

No.1803 2023年9月20日読了 主人公は、老舗の料理学校の後継者として期待される留季子。そういう家庭環境に反発を覚え、家を出て友人の風花と暮らしている。留季子と料理学校を仕切る祖母、母とのからみや、留季子の婿候補として雇われている料理学校の理事長とのからみで、一つの物語が進んで行く。時折美味しそうな料理の記述があって、この作品も料理小説かなと思う。 一方で昭和の世の料理学校を営む曾祖父の時代が描かれている。その物語の主人公は、しずえ。料理学校を営む家に女中奉公に来ている女性。しずえは、曾祖父の指導のもと、生姜焼きのレシピを書く。 二つの物語が並行して進んで行く。時代は令和と昭和という[…]
麦二郎
7ヶ月前

『クロコダイル・ティアーズ』雫井脩介

No.1799 2023年8月30日読了 クロコダイルティアーズとは、嘘泣きのこと。このタイトルが秀逸なのは、ラストになってわかった気がした。 夫を元彼に殺された妻が主人公かなと思ったら、物語が綴られている視点からすると、息子を嫁の元彼に殺された母親が主人公なんだろう。人は疑いの目で物事を見始めると、全てが疑わしく見えてしまうものかも知れない。 『火の粉』という著者の作品に似ていると思いながら読み進めた。図書館本なので、できたら今日読み終えて、明後日にも返却しに行かなくちゃと思って、毎日100ページ強読む計画を立て、順調に計画通り読むことができた。計画通り読み終えることができたのは、面白くてペ[…]
麦二郎
7ヶ月前

『ラジオ・ガガガ』原田ひ香

No.1797 2023年8月13日読了 『ラジオ・ガガガ』というタイトルは、素晴らしいと思う。まさにラジオはガガガっていうイメージがするからだ。僕がラジオを聴いていたのは、高校生くらいの頃だったろうか。もちろん、オールナイトニッポンという番組も聴いたことはあるが、それほど熱心なファンではなかった。 僕が一時期のめり込んでいたのは、海外の短波放送を聴くという趣味だった。雑音がひどい中、ダイヤルを回して音がするところで耳を澄ます。どこの国の放送かを確認して、視聴したことを郵送で報告する。BCL(Broadcasting Listener)ブームは、1970年代だったみたいで、僕も海外の放送局から[…]
麦二郎
8ヶ月前

『夜明けのすべて』瀬尾まいこ

No.1794 2023年7月31日読了 瀬尾まいこさんの書く小説は、安心して読めるものが多い。いろんな理由で落ち込んだりしている人たちの再生の物語が多いからだろう。しかも周囲の人たちも、主人公も良い人たちばかりだ。 この物語もそうだった。この本を読んでPMS(月経前症候群)という病気を初めて知った。要するに月経前に一時的に心が乱れてしまい、苛立って抑えられなくなる。この物語の主人公の一人、藤沢さんが患っている病気である。 もう一人の主人公、山添くんが患っているのは、パニック障害。こっちの方は、聞いたことがあるが、詳しくはない。この物語を読んで、特に原因となることが無くても、そして一見明るくて[…]
麦二郎
8ヶ月前