『永遠と横道世之介(下)』吉田修一

麦二郎
麦二郎

No.1784 2023年6月17日読了

吉祥寺のかなり南にある下宿「ドーミー吉祥寺の南」を舞台として、横道世之介の3月から8月にかけてのなんでもない一日が綴られる。
『横道世之介』を読んだ時には、続編があるとは思ってもいなかった。
思ってもいなかった『続横道世之介』を読んで、まさか次があるとは思ってもいなかった。
そんな思ってもいなかった3作目の「横道世之介」は、何と上下巻に分かれる長編小説だった。
その『永遠と横道世之介』の下巻は、3日間であっと言う間に読み終えたのでした。

内容

『永遠と横道世之介(上)』は、残暑の9月から秋、冬を迎え冬真っ盛りの2月までの「なんでもない一日」を描いていた。
この下巻では、その続きの3月から夏真っ盛りの8月までの物語と、その15年後の話も付け加えられている。

湘南のカフェ店員に一目惚れした下宿人谷尻くんは、恋を実らせるためにサーフィンを始める。
世之介は過去にサーフィンを教わった人を紹介し、谷尻くんをサポートする。
頻繁に登場するのが、鎌倉の海。

亡くなった恋人、二千花の回想も織り交ぜられ、物語は淡々と進んで行く。
後輩カメラマンのエバと咲子が新しい命を授かるが、母子に思わぬ危機が降りかかる。
こんなとんでもないことが起きていて、世之介も心を砕くのだけど、物語は淡々と進んで行くかのようだ。

8月は、下宿人達が世之介とあけみを慰労する日帰りの小旅行に出掛ける。
行き先は鎌倉である。
夏の日の楽しい想い出の一コマ。

これ以上はネタバレなので、書かないけれど、淡々と過ぎる「なんでもない一日」のようだけど、これが結構いろんなことが起きる。
それがまた人生なんだろう。

これから…

一気に読み終えてみて、ちょっとした余韻に浸った。
いろいろ起きる出来事を受け止めて、「なんでもない一日」のように生きたいと思った。
いろいろ起きる出来事を、大変なことと、あたふたするよりも、淡々としている方が良い。
人生って、そんなものだと思えたら良い。

最近、毎日にはちょっとした余白が必要だと思っている。
性格的なものか、僕の場合は、何かあると一刻も早く片付けてしまいたいと思う。
せっかちなのだ。とんでもなく。
そうじゃなくて、慌てないで一旦受け止めて、十分に咀嚼した上で片づけるようにしたいと思っている。
一日に隙間ができるとダメだと思っているフシがある。
そうじゃなくて、一日には余白が必要なのだ。
余白があってこそ、日々の出来事を受け止めて、考えて、前に進むことができる。
余白があってこそ、良いアイデアは生まれるのだ。

そんなふうに「余白」のことを考えるようになった。
この物語を読んで、まだうまく言い表せられないけれど、淡々と過ぎる「なんでもない一日」のようなものも必要だと思った。
実は人生って、そういう「なんでもない一日」の積み重ねで良いのだと思い始めた。

今日は、何だか海を見に行きたくなった。
この本を読んだ影響かも知れない。

麦二郎

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