『一橋桐子(76)の犯罪日記』原田ひ香
No.1755 2023年3月14日読了
読書の楽しみは、「面白かった」「良かった」「感動した」などと思える本と出会うことができるところでしょうか。
重厚長大なテーマだけが感動的なわけではなく、ユーモラスな作品だけが面白いと思うわけでなく、感じることはそれぞれ複雑なのですが、いずれにしても「読んで良かった」と思える本に出会えることは、とても嬉しいことです。
この本は、久々のヒットです。
読者としての立場から見たヒット作なのです。
このところ原田ひ香作品で文庫本になった本を買い漁っている感じですが、ますますいろいろ読んでみたくなる本でした。
この本の内容
主人公は76歳ですから、そこそこの高齢者。
血の繋がった姉とは、親の介護問題で仲違いしてしまい、甥姪とも交流が無くなっています。
なので、頼れる肉親はいない孤独な身の上。
つい最近まで親友と一緒に暮らしていたのですが、親友に先立たれてしまいます。
つまり孤独な老人で、年金もあまりもらえず、ビルの清掃の仕事をして暮らしています。
刑務所に入ると食べることに困らず、介護もしてもらえると、どこからか聞きつけて、自分も犯罪に手を染めて刑務所に入りたいと思うようになります。
これは強ち現実離れした物語ではないようです。
社会問題を取り上げた社会派小説の域にある小説なのかも知れません。
随所に高齢者社会問題を垣間見る小説なのです。
孤独だと思っていたら、主人公の周りには、いろいろなサポーターが存在しています。
やっぱり、人は一人では生きて行けないのです。
羨ましいくらい主人公にはサポーターが存在しているのですが、そのことに気付いていないのが主人公なのです。
それから…
ビル掃除の仕事をしている主人公ですが、仕事をすることは生活のためばかりでないことに気づきます。
年金生活に入り、仕事をしないで済む生活に一種の憧れを抱いている僕ですが、この本を読んで社会と繋がっている貴重さや仕事を通じて誰かの役に立っていることの必要性を感じました。
そろそろ引退して、自由に生きて行こうかなと思っている僕ですが、もう少しいろいろ考えてみたいと思いました。
何を考えるかと言うと、やはり社会との関わり方でしょうか。
身につまされる部分も多々あるこの本ですが、それだけにいろいろ考えたくなる本でもあるのです。
そう言う意味では、やはり社会問題を的確に描いている物語なのです。