『神曲』川村元気

No.1714 2022年10月18日読了

なんてタイムリーな作品だろうかと思ったのは、6月に読んだ『同志少女よ、敵を撃て』の時と同じでした。
両方ともタイムリーな出来事が起こる前に書かれている作品なので、それもまた不思議だと思いました。

ある家族が宗教に巻き込まれていき、親が信者となったがために自分も信じようとする2世信者が描かれています。
今現実に問題視されていることほど、悲惨な状況ではありません。少なくとも献金によって家庭が崩壊したとか、子供が自殺に追い込まれたとか、そういう場面はありません。
お金の問題や家庭崩壊の問題などではなく、心の問題と言った方が良いのかも知れません。

この物語に描かれている家族は、父とその連れ子の娘、義母との間に生まれた弟という4人家族です。そして、弟は残虐な無差別殺人の犠牲になってしまうという悲劇から始まります。
母は悲しみに明け暮れ、心が弱くなっている、そんなところにある宗教団体がやって来ます。
ちょっとした偶然が重なったことに「神」の存在を感じた母が、信者となって行くのです。
最初はそれを止めようとする父が居ます。
洗脳を解くためにいろいろな人を頼りますが、そのいずれも信じるに足らない人々達で、結局父も諦めてしまい、信者となって行きます。
娘は父を頼る気持ちを持つものの、父がそういう状態だから、諦めて家族一緒に信じようとします。
しかし、とある人物が娘の前に現れることにより、娘は徐々に気づいて行きます。

悲惨な結末となるのか、それとも救いのある結末か、気になって最後は一気に読みました。
何だか中途半端な感じもしないではないですが、納得できないものでもありません。
宗教観は人それぞれだから、良い悪いはないと思います。
結局辛いときに何を求めるか、なのかも知れません。

麦二郎

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