『刑事何森 逃走の行先』丸山正樹

麦二郎
麦二郎

No.1795 2023年8月8日読了

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』のスピンオフ、刑事何森シリーズの第2弾と言うことだった。
この本を先に買って、第2弾ということを知り、第1弾の『刑事何森 孤高の相貌』を図書館で借りて来て読んだのは、先月の下旬のことだった。

そしていよいよ第2弾のこの本を読了した。
第1弾と同じで、3つの短編で構成されていて、「逃女」と「永遠」、「小火」の3編で構成される。

「逃女」(とうじょ)は、とある食品包装会社で起こった傷害事件が物語の発端となる。
傷害事件を起こして逃亡したのはベトナム人技能実習生で、その行方を追いかける何森と荒井みゆきが行きつくのは、行き場を失った外国人を助ける組織の存在だった。
技能実習生の弱い立場につけ込む構図が浮き彫りになる短編だった。

「永遠」(エターナル)は、ラブホテルで起きた殺人事件が題材となっていて、つい最近どこかで起きた殺人事件と重なってしまう。
でも、この短編で描かれているのは、パパ活というものだった。
非正規雇用者が見つけた幸福だった筈が、いつの間にかパパ活を強いられるようになり、それでもその幸福を追いかける悲しい話だ。
荒井みゆきの犯人への言葉が、全てを表していて、この物語を締め括る。

ここまでの2つの短編は、60ページ程度のもので、最後がやや長くて120ページ超のもの。
このパターンは、第1弾も同じだった。
それぞれの短編は繋がりがあるから、連作短編のような形になるのだろうか。
その締めくくりだから、他の短編よりもやや長くなっているのかも知れない。

最後の「小火」(しょうか)は、とある公園のトイレで起きた小火事件から始まる。
ネタバレになるので詳細は書かないが、コロナ禍で失職した高齢者ホームレスと難民申請をした母親が在留資格を失って、一緒に逃げている少女を何森とみゆきが追いかけて、物語は展開する。
バス停で休んでいた高齢者ホームレスの殺人事件や在留資格関連で入管で命を落とした外国人の事件を思い出すが、この小説でも実際に引用されている。

弱い立場に立たされた人たちが抱える社会的な問題を浮き彫りにしているところは、第1弾よりもより強い印象的だった。
残念ながら、事件が解決してハッピーエンドとなるようなミステリーではなく、やるせない気持ちになってしまうような物語ばかりだった。
そういう意味では、読後感は良いものではない。
ただ、丸山正樹さんの筆力なのか、とても読み易く理解しやすい小説だ。

『デフ・ヴォイス』シリーズも近いうちに読んでみようと思っている。

麦二郎

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