『東京會舘とわたし』辻村深月

No.1637〜1638 2021年9月19日読了

上下巻分のレビューを一度にすることにしました。
東京會舘といろいろな人の関わりを大正から令和まで描いた物語です。
上巻は、大正から昭和39年までの物語ですが、この後東京會舘は建て替えられるので、上巻は旧館の頃の物語とされています。下巻は新館と2回目の建て替えを経た新新館までですが、2回目の建て替えまでの物語が中心です。

東京會舘には数回行ったことがありますが、とても料理が美味しいことを記憶しています。
この物語はノンフィクションを土台としているフィクションですが、料理が美味しいのは読んでみてなるほどと納得しました。
東京會舘といろいろな縁で繋がっている人達の物語ですが、顧客側だけでなく、そこで働く人達の物語もあります。

全部で10章と新章の11章で構成されています。新章は2回目の建て替えを終えた今の東京會舘の話であり、エピローグ的な短い章です。
上巻の旧館は、5つの章に分かれています。
東京會舘で開催される世界的なバイオリニストのコンサートにまつわる話や戦前に大政翼賛会の本部となる直前の話、戦中に結婚式を挙げるあるカップルの話、戦後直後のバーテンダーの話、そしてお土産とするためのクッキーにまつわる話の5つです。

下巻の新館は、1回目の建て替えにより新しくなった東京會舘にまつわる物語です。
旧館にあったシャンデリアが残されていたりするところは、何だかそれを観に行ってみたくなります。
夫に先立たれた老婦人が東京會舘を訪れ、夫との思い出に浸る話や越路吹雪ディナーショーで若い営業担当者が体験した温かい話、2011年3月11日の東日本大震災の日の話、そして著者の体験に基づいているかのような直木賞受賞作家の話、2回目の建て替えを目前にした最後の結婚式の話で構成されています。
そして最後にとても短いエピローグ的な話は、現在の東京會舘になって以降の物語です。

それぞれの短編は独立しているのですが、少しずつ繋がっていて、全体を通して1つの物語を構成しているかのようです。
この物語を読んで、東京會舘に行ってみたくなりました。

麦二郎

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