「翠雨(すいう)」とは、若葉や青葉の頃、初夏の頃に降る美しい雨のことです。
本の表紙は、紫陽花の花に囲まれた女性と雨のイラストです。
主人公の猿橋勝子さんは、紫陽花が好きだったようで、物語の中にも紫陽花はでてきます。
「翠雨」は、ちょうど紫陽花の頃の雨なのでしょう。
伊与原新さんの直木賞受賞第一作は、先駆的女性科学者の生涯の物語でした。
猿橋勝子さんは、2007年9月に87歳で亡くなられています。
この物語の中心は、第二次大戦中から戦後にかけてでした。
余談ですが、この前読んだ『普天を我が手に』も『カフェーの帰り道』も、同じような時代でした。
偶然だと思いますが、偶然とは思えないような一致です。
物語は猿橋勝子さんの16歳の頃から始まります。
彼女は医学を学ぶことを決意しており、尊敬する女性の医学者がいて、その学校に進学しようと決めていました。
受験の面接で尊敬する医学者に幻滅してしまった彼女は帝国女子理学専門学校(現在の東邦大学理学部)に入ることにしました。
卒業すると、中央気象台研究部に入り、三宅泰雄と出会います。
雨が好きだった彼女は、今の気象庁に入ることになるから、人生とは不思議なものです。
物語の終盤は、彼女が核実験による海洋汚染の測定をする頃でした。
核実験をしているアメリカの博士とセシウム137の濃度を測定し、その精度を競う頃までです。
その辺りが物語の中心だということです。
彼女の没後のちょっとした物語がエピローグなのですが、悲しい終わり方でもなく、彼女が生き抜いたことによる爽やかささえ感じてしまうのです。
とても良い読後感でしたし、読み終えて「この本に出会えて良かった」と思ったくらいです。
ほんとうに、良い本、良い物語に出会えた気がします。
No.2041 2026年2月27日
