「ファンダム経済」と「チャーチマーケティング」。特定の「推し」を愛するファンの自律的な経済活動と、教会のコミュニティ活性化の手法。本作は、この二つの概念が交錯する現代社会を舞台にした、スリリングな物語です。
交錯する三者の思惑と孤独
物語は、立場の異なる三人の視点で進みます。
- 久保田慶彦:レコード会社に勤め、アイドルの運営に奔走する。別れた妻との間にいる娘と、月に一度のビデオ通話だけが繋がりの孤独な中年。
- 武藤澄香:久保田の娘。内向的な性格に悩み、留学という環境の変化を求めている大学生。
- 隅川絢子:ある舞台俳優を熱狂的に応援することに、自身の存在意義を見出している契約社員。
仕掛ける側、のめり込む側、そしてそれを煽る者。それぞれの切実な事情を抱えた彼らの日常は、やがて一つの大きなうねりへと収束していきます。
「のめり込む」ことの救いと危うさ
読み進めるうちに、物語は加速度を増して結末へと向かいます。 本作を通じて問いかけられるのは、生き方の姿勢です。視野を狭めて何かに没頭する方が救われるのか、それとも多角的に世の中を眺める方が賢明なのか。あるいは、中毒的にのめり込む時期を経て、醒めた目で世界を見るようになることが正解なのか。
現代を象徴するような「熱狂」の正体を、著者は鋭く描き出します。
難解さの先にある、ページをめくる手
朝井リョウさんの作品を手に取るのはこれで5作目になりますが、いつもどこか一筋縄ではいかない難しさを感じます。しかし、それ以上に「最後まで読まざるをえない」という強い力に満ちています。
ラストへと導かれるように言葉を追いかけてしまう、スリリングな読書体験。
現代の危ういバランスの上に立つ私たちに、確かな余韻を残してくれる作品でした。
No.2027 2026年1月11日