夫と死別し、勤務先も倒産。生きる気力が薄れつつある美紀は、人生に終わりを告げる前に、かつての恋人との思い出を求めて鎌倉を歩きます。
山中で道に迷った彼女がたどり着いたのは、古い洋館の台湾茶カフェ「鎌倉茶藝館」でした。それを機に、彼女は鎌倉へ移り住み、店で働くことになります。台湾茶や和装の魅力、そして二人の男性との関わりの中で、美紀は少しずつ再生の道を歩み始めます。
一歩間違えればドロドロになりそうな愛憎劇的な危うさもありますが、踏み外しかけては立ち直る展開がスリリングでした。これまでの伊吹有喜作品にない官能的なシーンには驚きましたが、最後は心地よい感覚で読み終えることができた気がします。
台湾茶や和服に詳しい方、そして鎌倉に馴染みがある方なら、より深くはまれる物語ではないでしょうか。私自身、鎌倉をよく歩くので「あの辺りが舞台だな」と親近感を覚えながら読み進めました。小川糸さんの描く鎌倉とはまた違う、シビアで落ち着かない空気感もありましたが、それもまた本作の面白さの一つなのでしょう。
伊吹有喜さんの新たな一面(引き出し)を見つけたような、そんな一冊でした。
No.2021 2026年1月1日