『夜明けのすべて』瀬尾まいこ

No.1794 2023年7月31日読了

瀬尾まいこさんの書く小説は、安心して読めるものが多い。
いろんな理由で落ち込んだりしている人たちの再生の物語が多いからだろう。
しかも周囲の人たちも、主人公も良い人たちばかりだ。

この物語もそうだった。
この本を読んでPMS(月経前症候群)という病気を初めて知った。
要するに月経前に一時的に心が乱れてしまい、苛立って抑えられなくなる。
この物語の主人公の一人、藤沢さんが患っている病気である。

もう一人の主人公、山添くんが患っているのは、パニック障害。
こっちの方は、聞いたことがあるが、詳しくはない。
この物語を読んで、特に原因となることが無くても、そして一見明るくて心の病気とは縁が無さそうな人でもかかってしまう病だと知った。

どちらも、特にこれと言った要因は見当たらないのに、かかってしまった病だ。
本人に原因があるわけじゃなく、風邪と同じで誰でもかかってしまう可能性のある病だと思う。
そう考えると、とても怖くなる。
ある日突然そういうことになると、電車に乗るのもままならない。

この二人の主人公は、お互いのことを何となく気にしている。
特別な感情を持っているわけではないが、なぜかお互いにおせっかいなことをしてしまう。
特に藤沢さんが、おせっかいなところが多々ある。
山添くんは、おせっかいだと感じながら、なぜか受け入れてしまう。
そして、藤沢さんの様子を観察して、PMSの症状の前触れまで分かってしまったりする。

この二人を取り巻く人たちも、とても優しい人たちだ。
二人が転職して落ち着いた会社の社長さんも、とても優しい。
年配の同僚たちも二人を優しく見守り、時には温かい言葉をかける。
病に悩む二人が働くには、とても良い会社だ。
まるで温かい家庭のようだ。

こういう病が癒えて行くには、きっと時間がかかるのだろう。
ちょっとずつ治って行くのだろうと思う。
そのゆっくりとしたペースは、きっと本人にしたらたまらなくゆっくりなんだろうけど。
やはり焦ってはいけないのだ。

この小説もそういうテンポで進んで行く。
でも、決して退屈しない物語だと思う。
ハラハラ、ドキドキの無い物語ではあるけれど、ちょっとした変化が嬉しい。
そのうちそういう変化が起きることを期待して、次のページを捲っている。

麦二郎

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