『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう

『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう

麦二郎
麦二郎
2021年5月2日

No.1592 2021年3月15日読了

凪良ゆうさんの本は、この本で3冊目です。
最初に読んだのが『流浪の月』で、次が『私の美しい庭』でした。
本屋さんで見かけたこの本は、読もうかどうしようか迷ったのですが、やっぱり読もうと思い買ったのでした。
最近は新刊が出ると必ず買う作家は、数少なくなってしまいましたが、その少ないうちの一人です。

ここからは、ややネタバレな内容を含みますので、まだ読まれていない方はご注意ください。
ただ、ネタバレと言っても、ミステリーの謎解きをそのままバラしているような内容ではありません。

シャングリラとは、ジェームズ・ヒルトンの小説『失われた地平線』に登場する理想郷の名称で、理想郷と同義で使われます。まあ、要するに理想的な世界なわけです。
滅びとは、1か月後に大きな隕石が地球にぶつかることが解り、それによって人類は滅亡してしまうというこの小説の設定を示しています。
地球が滅びる前の理想郷って何だろうと思ってしまいます。
本当の意味は解りませんが、僕の勝手な印象は、この小説の登場人物にとっての理想郷が、地球が滅びる前に見つかるということを示しています。

4つのパートに分かれていて、それぞれが繋がって行きます。
言い換えると、4人の視点から物語が綴られて行くということです。
まず最初は、いじめられっ子の男子高校生の視点で綴られています。クラスで注目を浴びるような美少女に恋心を抱いている男の子です。
ある理由から滅亡前の混沌とした大都会東京へ行きたいと言う美少女を守るため、一緒に東京へ向かいます。

2番目の視点は、やくざになれないチンピラで、どうしようも無さそうな40代男性です。
理想郷からはかけ離れた生活をしていて、抜け出せなくなっています。
3番目の視点が、最初の男の子の母親です。息子を助けたい一心で、東京に行った息子の後を追います。

最後の視点は、ひょんなことで芸能界デビューを果たしたミュージシャンの女性の視点です。
この女性の視点が、他とはちょっと違って見えます。
滅びの前の理想郷が一番しっくり来る気がします。

この本で言う理想郷とは何だろうって考えました。
きっと4人の主人公が迷い込んだ、どうしようもない世界ではなく、自分が本当に求めていたものなんだろうと思います。
滅びの前だからこそ、見つけたものかも知れません。
滅びの前だからこそ、見つかるものかも知れません。
滅びるからと言って、それは決して悲しいことではない気がします。

読み易くて、とても面白い小説でした。
ただ、ラストはちょっと期待したのと違っていた気がします。

麦二郎

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