『坂の途中の家』角田光代

『坂の途中の家』角田光代

坂の途中の家』は、補充裁判員に指名された主人公里沙子が、8か月の子供を風呂に落として殺してしまった母親水穂の事件を辿って行くに従って、自らの経験と重ねて行くという話です。角田光代さん得意の心理描写が、際立っている小説だと思います。

被告人の水穂は、夫の乱暴な言葉や機嫌が悪い時には口をきかないなどの行為により、夫を怖がるようになる。育児に関しても夫の行動により、徐々に追い詰められて行く。ある日とうとう泣き止まない我が子を風呂に落として死なせてしまう。その事件の補充裁判員に指名された主人公里沙子は、自分のことを被告人と重ねて、考えて行く。

里沙子の夫も事件を追いかければ追いかけるほど、事件の夫と同類に思えてくる。日常に良くある悪意なのかも知れない。その悪意は決して法に触れるような類のものではない。DVにまでは至らない、つまり法に触れることがない言葉によるプレッシャーであり、言葉によって傷付けて行くような悪意なのである。それによってどんどん追い詰められて行く里沙子の心理が、被告人水穂の心理に重なって行く。いつの間にか被告人を庇う側に回っている自分に気付く。

こんなふうな女性の心理描写をさせると、角田光代さんはとても上手い。決して気持ちの良い小説ではないけれど、どんどん先を読みたくなって来る。角田光代さんの小説には、罪を犯してしまった女性の心理描写が優れている作品が多い気がする。『八日目の蝉』も『紙の月』もそうだと思う。犯罪ではないけれど、『ひそやかな花園』もそういう類の心理描写がとても冴えていた作品だと思うのです。

僕の場合好みは読後感の良い小説なんだけど、角田光代さんの作品だけは、新作を追いかけて読んでしまうのです。
(79冊目/2016年)


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