切羽へ

投稿者: | 2012年8月2日

『切羽へ』井上荒野

井上荒野さんの作品は、『キャベツ炒めに捧ぐ』を初めて読みました。とても良い小説だと思ったので、是非別の作品も読もうと、文庫本になっているこの本『切羽へ』を選びました。『切羽へ』は2008年に出版された作品で、『キャベツ炒めに捧ぐ』は2011年です。

切羽というのは、トンネルを掘って行く時の先端の部分です。トンネルを掘り進めて行くと、当然突き抜けるわけですが、その時には無くなる部分というわけです。儚いものなのかなと思いましたが、トンネルを掘るのは時間もかかるので、儚いものではなさそうです。突き抜けると無くなるものですから、要するに暗いトンネルの先に光が見えた時には、無くなるものを示しているのかも知れません。闇の中を進んで行き、やがて光が広がる世界に突き抜けて行くわけです。

主人公のセイも、そして登場人物のそれぞれが、この「切羽」のような状態にあり、やがては明るい世界に歩みを進めて行く、そんな感じの物語でした。恋愛だったり、情愛だったり、そういう面での話です。しかも若いが故に陥るところではなく、もっと大人の話なのです。だから「迷い」と言うのも、合っていない気がします。

印象だけの話をすると、とても落ち着いていて、静かな物語でした。バタバタしたところも、ありません。何故そう感じるかと言うと、井上荒野さんが行間を読ませる表現に長けた方だからかも知れません。解説で山田詠美さんも、「井上荒野さんは、書くことと同じくらい、あるいは、それ以上に、書かないことを大事にしている人なのだ」と書かれています。作品としてはちょっと違う『キャベツ炒めに捧ぐ』でも、そう言えば、そんな感じがするのです。それが共通して感じた「静けさ」みたいなものにつながっているのかなと思いました。
(84冊目/2012年)


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